タルコフスキーの作品を観るのは今回が初めてだ。ただ何となくタルコフスキーは難解、そう考えていてこれまで借りることがなかったのだが、パンクの女王パティ・スミスのアルバム「Banga」(2012年)に収録された「Tarkovsky:The second stop is Jupiter」という曲が「僕の村は戦場だった」へのアンサー・ソングだと最近になって知り、映画そのものをぜひとも観てみたくなったのである。

ひとコマひとコマがとても独創的で、それは紛れもなく唯一無二のタルコフスキー・ワールド。水、火、光が重要な役割を果たし、特に射し込む光の使い方が実に巧みだ。恐らく彼はオーソン・ウェルズと並ぶ天才に違いない。映画監督ならば誰しもタルコフスキーのように撮りたいと思うだろう。私が最も印象に残ったのは、塹壕をまたいだ兵士が従軍看護師の女性を両手で抱えてくちづけをする場面。なんと素晴らしいカット。きっと何かの作品でこのシーンは引用されているのではないか。

戦争で家族を失った主人公の少年はしばしば母親の夢を見るのだが、劇中何度となく映される白樺の木々は母親そして女性のメタファーのように思われる。更にはその木を突くカッコウは少年自身を表してもいるようである。母なる大地を戦により荒廃させていく愚かしい男たちとの、この対比は反戦映画でありながらも高い芸術性を感じさせるものだ。

母に対する息子の愛が謳われた本作はタルコフスキーの長編第一作であり、これは同じくロシア出身のズビャギンツェフがデビュー作「父、帰る」において、父親に向けた愛情を描いたのと、どこか呼応しあっているかのようである。

「僕の村は戦場だった」(IVAN'S CHILDHOOD) 1962年 94分 監督:アンドレイ・タルコフスキー、脚色:ウラジミール・ポゴモーロフ、ミハイル・パパワ、撮影:ワジーム・ユーソフ、音楽:V・オフチニコフ、出演:コーリヤ・ブルリヤーエフ、V・ズブコフ、E・ジャリコフ、S・クルイロフ


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